【コラム】教養としての人材開発(第5回)
回を重ねましたコラムも今回をもってこのシリーズは一旦終了となります。
最後にリーダーシップIIとして、人事部門の役割について纏めてみたいと思います。人事部門は経営と社員の間において仕事をしています。両者に関わり繋ぐ、支える、業績を伸ばす、能力を開発する、競争力を上げる仕事と言えます。それは時に、夜間航行する船を照らす灯台のような役割が求められます。楽な仕事ではありません。
実際の会社・組織には様々なタイプの社員、従業員がいます。
それぞれに個別具体的な事情をもった人も少なくありません。また、社会性の観点から如何なものかと疑問に思う人に遭遇する場合も少なくありません。言動に問題のある社員もいるでしょう。心のケアを必要としている方々もいらっしゃいます。
経営戦略的な仕事がある一方、労務管理を含めたこのような現場レベルでの人間系の仕事が日常的にあるはずです。
人事部門に求められるリーダーシップについて、二つの切り口で考えてみましょう。
1 組織の成長段階と人事部門のリーダーシップの発揮
会社や組織にはそれぞれに発展成長の段階があります。その段階に応じた組織特有の課題、チャレンジが発生します。そして、その状況に応じたリーダーシップが求められます。いわゆる、Situational Leadershipです。Bruce TuckmanのFSNP step論はご存知の方も多いと思います。組織の発展段階に応じて特有の状況課題と、次の段階へ進むためのリーダーがとるべき行動が論じられています。
Forming (形成)⇨ Storming (混乱と対立)⇨ Norming (統一)⇨ Performing(機能) の4段階です。興味のある方は再度確認されてください。
ここでのポイントは戦略的人事と日々の人事部門の業務が、この4段階におけるリーダーがとるべきアクションと密接に関わっているということです。是非、ご自身の会社と仕事に照らして考えてみてください。
2 経営戦略、M&A、組織再編制、事業組織構成の変化に伴う戦略人事
現代の経営とビジネス界においてはM&Aを中心にしたダイナミックな事業展開が日常化しています。その状況下で、誰が、どの部門が戦略人事のOwnershipを執るのかいつまでも曖昧なまま、またはスピード感なく人事部門の仕事が進んでいる(ように見える)会社の方と話す機会があります。設定した、またはマネジメントと合意した(と思われる)人事の戦略的プライオリティー・ゴール、プラン、プロセスが遅々として進まない。このような環境下で日々仕事をしている人事部門の方も少なくないのではないでしょうか。
また、大変残念なことですが、新しい組織編成に伴い人事部門そのものの機能的組織化、チームとしての範囲や連携も曖昧、またはギクシャクしている会社もあります。
これを解決し前進するためには、ビジネスマネジメントと丁々発止できる、効果的なコミュニケーション能力を有している人事部門のリーダーシップが間違いなく必要です。CHROでもHRマネージャでも、またスタッフレベルにおいても、この点のリーダーシップの開発、能力の獲得が遅れています。これは短時間で実現できることではありません。その解決方法として取り組むべきことはこれまでのコラム数回で私の考えを共有させて頂きました。参考にして頂ければ嬉しく思います。そして、アクションレベルに展開して、コラム第1回目でお伝えした人事部門のミッションを達成してもらいたいと切に願います。そして、同時に人事部門で仕事をする皆さん一人ひとりが真に競争力のある個人として豊かなキャリアを築き歩んで行かれることを祈念して筆を置くことに致します。
2021年暮れ 木本 正之